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現場開発のAIエージェントで作業時間を50%減!テスト部「AI塾」の挑戦

作成者: LINE Fukuoka Press|Apr 7, 2026 1:00:00 AM

LINEヤフーコミュニケーションズのサービステスト本部では、部門横断の有志プロジェクト「AI塾」を立ち上げ、ソフトウェアテストの準備工程を担うAIエージェントを自社開発しました。これにより、テストの準備(計画づくり、影響整理、テスト項目作成)にかかる作業時間を50%短縮し、ゆくゆくは最大80%の省力化を見込んでいます。最終目標に「テスト工程のフルオート化」を掲げて始まったこの挑戦。AI塾のメンバー4人に、AIエージェント内製のプロセスと、AIと共生する組織の展望について話を聞いてみました。

 

サービステスト本部 AI塾メンバー

「やらされ感」を払拭し、現場主導でテスト工程のフルオート化を目指す

――まずは、テスト部門にAIを導入し、「AI塾」を立ち上げた背景について教えてください。

野原:サービステスト本部では、LINEヤフーが展開するサービスのテスト(リリース前にサービスの品質を点検する業務)を行っています。私は、これまで人手で行っていたテスト業務の生産性を引き上げるため、2024年秋頃から、一連の作業プロセスのフルオート化を構想していました。それを「FAST戦略」という方針を掲げ、本格的に取り組み始めたのが2025年春のことです。

古舘:まず私が初期のプロトタイプ(試作品)を作りました。ソフトウェアのテストプロセスには、企画の仕様書を見て「どんなテストをするか」を考える設計フェーズと、具体的な「テストケース(操作手順と期待される結果のリスト)」を作るフェーズと、実際にテストを実行するフェーズがあります。この設計から実行までの一連のプロセスをAIエージェントでできるかどうかの検証を行ったんです。

野原:ある程度期待した結果は得られたものの、それは古舘さんが担当しているサービスに特化したものだったので、組織全体で使うためには、どの部署でも使える共通の基盤にする必要がありました。それに、トップダウンで「AIのツールができたから使え」と押し付けるのは絶対に避けたかった。現場に「やらされ感」が出てしまうからです。そこで、サービステスト本部内に「AI塾」を立ち上げ、そこに集まったメンバーと現場主導でツールをつくってAI導入を進めることにしたのです。

AI塾を立ち上げたのは8月で、部門横断で有志のメンバーを募り、集まったメンバーは11名です。塾長は私なのですが、塾といってもカリキュラムがあって私が教えているというよりは、志を共にして知識や経験を共有するグループ、と捉えています。

異なる業務の共通基盤、構築のカギは「汎用的かつ柔軟に」

――AI塾ではどのようなプロセスで開発を進めていったのでしょうか?

古舘:プロトタイプをベースに、まずはテストケース設計までのプロセスに絞って汎用的なAIエージェントへとブラッシュアップしていくことにしました。Claude Code(クロードコード)というエージェンティックコーディングツールを、汎用AIエージェントとして活用することにしました。非エンジニアでも手軽にタスクに特化したAIエージェントを作成できるようになったためです。その機能を活用し、テスト業務に特化したエージェントを作ることにしました。

――一般的な生成AIの活用ではなく、Claude CodeでAIエージェントを内製することにした理由は何でしょうか?

佐田:ChatGPTなどの「対話型AI」では、人間が質問をしてAIが答えるというラリーが必要になります。一方で、私たちが今回開発したAIエージェントは「自律型AI」と呼ばれるものです。AI自身が「このテストをするためにはこの情報が必要だ」と自ら考えて情報を収集して、整理して、提案してくれるのが大きな違いです。

野原:私たちが目指しているのはプロセスのフルオート化であり、途中に人間を介在させたくないのです。チャットAIはあくまで「人の作業を手助けするサポート役」ですが、AIエージェントは「作業をするロボットが待機していて、指示を出せば全部自律的に動いてくれる」というイメージです。

ここで補足しておきたいのですが、「じゃあ、AIエージェントが完成したら、テストは誰がやってもいい業務になる」と思われるかもしれません。でも、AIを適切に動かすにはテストに関わるノウハウやデータが必要で、その量や質に比例してアウトプットが変わります。しかも、ツールも保守やアップデートを続けないと、古くて使えなくなってしまう。私たちは10年以上にわたり、LINEサービスのテストを行っていたのでそのノウハウとデータを蓄積しています。その上で、フルオート化だけでなく、AIを使った未来の組織のあり方や課題解決のイメージを描ける人材を組織内で育てることも、AI塾で取り組んだ狙いです。

――開発の過程で、特に苦労された点はどこですか?

藤村:AI塾にはさまざまな部門の担当者が集まっているので、テストの対象もやり方もバラバラだったことです。例えば、画面の表示だけを確認するシンプルなテストもあれば、サーバー内部のデータ連携を確認する複雑なテストもあって。汎用的なAIエージェントをつくろうとすると、「うちの部署ではこんな高度なテストはしていない」とか、逆に「物足りない」といったズレが生じてしまいます。それぞれが違う前提条件を持っている中で、「このAIエージェントにどこまでのレベルの回答を求めるか」という落としどころを決めるのに一番時間がかかりましたね。

佐田:出力結果のブレをなくすのも大変でした。AIに与える情報も、写真だけの人もいれば、PDFを渡す人もいたり、詳しく与える人とちょっとだけしか渡さない人などばらつきがあって。しかし、入力情報が違うからといって、出力されるテスト観点などの成果物がブレるようではツールとして意味がありません。「どんなデータを与えられても、テストに必要な情報だけを抽出して回答する」というルールをAIに細かく覚え込ませていきました。

藤村:インプットした情報に対して、ちゃんと各プロジェクトで使っているテストの分析に沿う回答が出るように、「汎用的かつ柔軟なルール」をAIエージェントに与えるのに苦労しましたよね。

――その入力情報のバラつきや、各部署の違いという壁を、どのようにクリアしたのですか?

佐田:入力データのフォーマットを限定してしまうと、現場のみんなが使わなくなってしまうので、PDFでも画面のスクリーンショットでも、AI側が対応できる形式であれば柔軟に読み込めるようにしました。また、テストに関係のある情報だけを自律的に抽出して思考するように裏側で細かく指示を組み込んでいます。出力自体は一般的なテスト観点をベースにしつつも、要求すればもっと高度な観点でテスト設計を出力できるようにしました。

本導入に向けた先行リリースが後押し、現場のAI活用が加速

――AI塾で開発された汎用型AIエージェントは、2025年11月に先行リリースされました。現場の反応や成果はいかがですか?

野原:非常に驚いているのが、現場への浸透スピードです。2025年11月のリリースは、2026年4月の本導入に向けて、利用環境の構築やツールの動作に慣れてもらうことを目的としたものでしたが、それでも現場では想定以上に前向きに受け入れられました。

過去に別の自動化ツールを推進した際は、導入や定着までにかなり時間がかかりました。一方で今回は、このAIエージェントを使うためにClaude Codeの導入が必要だったこともあり、利用環境の整備が一気に進みました。そうした準備が進んだことで、AIエージェントそのものへの心理的なハードルも下がり、結果として現場全体でAIを業務に取り入れる流れを後押ししたと感じています。

――なぜそこまでスムーズに浸透が進んだのでしょうか?

野原:従来の自動化ツールは、スクリプト(プログラムのコード)を書いたり、複雑な初期設定をしたりと、準備のハードルが高かったんです。今回は、「ここにファイルを置いて、これを実行するだけ」という非常にシンプルなパッケージにしたことで、専門知識がなくてもすぐに触れる状態にしたこともポイントです。

佐田:AI塾のメンバーが各部署にいる影響も大きいと思います。エンジニアではなく、隣で作業している同じチームの仲間にすぐ質問できる環境があったため、導入のハードルが一気に下がりました。「みんなにツールを使ってもらいたいから」と、各部門でAI塾のメンバーが中心となって自発的に勉強会も開かれていますよね。

藤村:私のチームでも「欲しい回答がもらえない」などAIに対する先入観をもっている人もたくさんいました。勉強会では、初歩的な内容からClaude Codeの使い方まで段階的に紹介しつつ、「AIは万能ではないけれど、壁打ち相手として対話しながら使うと精度が上がって楽しい」と伝えています。その結果、今ではチーム内でAI活用が日常化し、Claude Codeを使って自分の業務の一部自動化に取り組むメンバーも現れています。

 ▲ 藤村さんが作成した勉強会の資料。自身が愛用しているGPTsを擬人化 

 人間の仕事は「タスク消化」から「課題解決」へ。キャリアをAIと共創する 

――最後に、AIエージェントを活用することで、皆さんの業務や働き方は今後どう変わっていくか、今後の展望を教えてください。

藤村:私はシンプルに「仕事を楽にしたい」です(笑)。AIは人間の脳のリソースを空けるためのものだと捉えています。AIに任せられる定型業務は全部任せて、その余裕をもっとチームの環境づくりや業務改善に充てていきたいです。メンバーがいかに効率よく、楽しく仕事ができる環境をつくれるかをこれからも追求していきます。

佐田:私は「AI佐田」をつくりたいと思っています。自分がいなくても仕事が回る状態を作り、空いた時間で「もっと効率化できるのではないか」という改善作業や、別の視点での品質向上にリソースを割いていきたいと考えています。

古舘:まずは、みんな楽しみながらAIを使えるようになればいいなと思っています。そして、コスト削減だけでなく、本質的なサービスの品質向上につなげていきたいですよね。AIで作業時間を短縮できたら、浮いた時間で、テストの戦略やユーザー体験の改善など、人間が本来考えるべき付加価値の高い部分に時間を使っていきたいです。

野原:これから、私たちのタスクのあり方は根本的に変化していくでしょう。人がやるべき仕事は「タスクをこなす」ではなく、課題に気づき、いかに解決するかといった「問いを立てる」ことです。私たちはすでに、AIエージェントの内製を通して「問い」を立てる経験をしているし、それができる人材が現場から育っていることは、事業貢献の観点からも非常に大きな価値があります。開発のスピードが上がる中で、テストのスピードと品質でも応えられるように、未来を見据えてメンバーとともに進化していきます。