生成AIの進化により、クリエイティブ制作の現場でもAI活用が広がっています。一方で、企業の制作現場では「AIでつくれる」ことと「実際に使える」ことは同じではありません。品質、権利面、ユーザー体験を踏まえながら、どのようにAIと向き合うのかが問われています。
LINEヤフーコミュニケーションズのクリエイティブ部では、AIをどのように取り入れているのでしょうか。今回は、サービスのUI/UXやユーザー体験を設計するプロダクトデザイン領域と、LINEスタンプや着せかえなどのイラスト制作・ディレクション領域、それぞれの現場をリードする金子さんと浦屋さんに話を聞きました。
AIを便利な道具として受け入れながらも、すべてを任せきるわけではない。その向き合い方から、AI時代のクリエイティブ職が大切にする価値が見えてきました。
AIを「ライバル」から「仕事仲間」へ
――クリエイティブ部でAIを使い始めたきっかけは何だったのでしょうか。
浦屋:会社全体でAI活用の推進が始まったことが、大きなきっかけでした。
ただ、最初から全員が積極的に使っていたわけではありません。特にイラスト領域では、当初は「どう活用してよいか分からない」という戸惑いもあり、画像生成AIを便利な道具というより、ライバルのように感じる人もいました。そこで、実際の業務とは切り離して、業務外の素材で試験的にAIに触れられる場として、Slackに「AI研究室」というチャンネルをつくりました。遊び感覚で触って、気づいたことを共有し合ううちに、AIに対する心理的なハードルも少しずつ下がっていったと思います。
Slackチャンネル「AI研究室」で共有された画像生成AIの検証例
金子:私は新しいツールが一つ増えたような感覚でした。これまでのツールではできなかったことができるようになる。期待以上に使えるかどうかは人によりますが、道具なので使い方次第だと思っています。
プロダクトデザイン:AIとつくる、80%のラフ
――プロダクトデザインの現場では、具体的にどのようにAIを活用しているんですか。
金子:デザインは、誰にどんなものを提供するのかを考えるところから始まります。これまでは自分の中で考えていたことを、今はAIと壁打ちしながらブラッシュアップできるようになりました。考えたことをラフとして可視化するところにもAIを使っています。
以前は人が40%くらいのラフをつくり、そこからブラッシュアップしていました。今はAIを使うことで60%、場合によっては80%くらいまで持っていける感覚があります。最後の80%から100%に仕上げるところは、人が調整する。AIを使いこなせる割合によって、この分担は変わってきていると思います。
――AIの提案をそのまま採用するのではなく、人が最後に判断するのですね。
金子:そうです。AIの提案はあくまで材料です。私はAIに対して結構反論しちゃいます(笑)。「それはそうかもしれないけど、自分はこう思う」と返しながら、折り合いをつけていくんです。
自分がこれまで積み上げてきた経験や感覚も無視したくない。そこを手放すと、みんなが出す資料やデザインが同じようなものになっていく可能性があります。AIは使うけれど、人としてのわがままや主張を残すことも大事だと思っています。というかそう信じたい(笑)。
イラスト制作・ディレクション:完成品ではなく、発想とリサーチの補助として使う
――イラストチームでは、どのような場面で使っていますか。
浦屋:クライアント企業様からご依頼いただく案件では、特に慎重に扱っています。先方のAI活用ルールを遵守し、仕上げや納品物としてそのまま使うことはせず、主にアイデア出しやイメージ参考の作成、リサーチの補助に活用しています。
これまでは頭の中にあるイメージに近い画像を、素材サイトや検索で探していました。今はAIに一度仮のイメージを出してもらうことで、参考資料探しの時間を短縮できます。アニメーションなど動きのある表現が必要な場合も、たとえば炎の揺らめきのような動画を参考として生成し、イメージづくりに役立てることがあります。
――期待と違うものが出てくることもありますか。
浦屋:あります。でも、それが良いヒントになることもあるんです。「こういう切り口もあるんだ」と、自分の頭の中だけでは出てこなかった方向に広がるので、発想の刺激になります。
画像や動画の参考づくりだけでなく、リサーチの補助にもAIを使っています。LINEスタンプのディレクションでは、キャラクターや作品、タレントの皆様の「らしさ」をスタンプの表現に落とし込むことが欠かせません。芸能人、アニメ、漫画など、さまざまなジャンルの特徴や、ファンに親しまれている言葉を深く把握する必要があります。
そうした場面で、AIに「よく使われている言葉」などを聞き、それをフックに実際に自分たちで検索して確認するようにしています。そのおかげで、ファンの皆様にも「分かってるね」と思っていただけるような、的確な表現を選択できているように思います。もちろん、AIの回答がすべて正確とは限らないので、そのまま鵜呑みにするのではなく、あくまで「調べるきっかけ」として活用している感覚です。
「それっぽい」の先をつくるために
――AIは便利な仲間である一方で、「ここは人間が担いたい」という気持ちもあるように感じました。
金子:AIは過去のデータを学習しているので、「3Dっぽさ」や「こういうテイスト」はかなり早く出せます。でも、今までにないものをつくろうとすると、やはり人の発想が必要です。
AIと一緒に8合目までは爆速で登れる。その分、そこから先、頂上よりもさらに先を考える時間が増える。そこに人のクリエイティビティが効いてくるのではないかと思います。
「このキャラクターにこんなことを言わせるのか」という驚きや、毒があるけれど憎めないニュアンス。そういう塩梅は、人が調整するものだと思います。「それっぽいもの」はAIでもできるかもしれません。でも、今までになかった心地よさをつくるには、まだ人の力が必要だと思いたいです。
浦屋:AIを使い始めて、「助かる」「ありがたい」と思う場面は本当に多いです。でも、どこかで「負けないぞ」と思っている自分もいます。ついAIにマウントを取りたくなるというか(笑)。
ただ、AIを否定しているわけではありません。得意なところは助けてもらう。でも、どこか既視感のあるものではなく、「まだ誰も見たことがない表現」を生み出したい。そのプライドのような気持ちは、クリエイターとしてずっと持ち続けたいと思っています。
「つくれる」と「任せられる」は違う
――AIに任せる範囲と、人が担うべき範囲はどこで線引きしていますか。
浦屋:ゼロからAIに思い通りのものをつくらせようとすると、「違う、そうじゃない」と何度もやり直すことになります。まず人が「これをやりたい」と目的を明確にして、その手段としてAIを使う。そういう協業の形でないと、いいものはできないと思っています。
AIは技術的に何でも「つくれる」かもしれませんが、制作の目的まで「任せられる」わけではありません。何をつくりたいかという意志を持ち、どこで力を借りるかを判断するのは、やはり人の役割だと思います。
金子:もう一つ大きいのは、責任を持てるかどうかです。生成AIでつくったものに何か起きたとき、AIに責任を取らせることはできません。最終的には、それを使うと判断した人間が責任を持つことになります。だからこそ、コントロールできるかどうか、説明できるかどうかは重要です。
効率化で終わらせない、表現を磨く余白
――AI活用が進むことで、クリエイティブ職に求められるスキルは変わっていくのでしょうか。
金子:デザイナーがデザインだけをつくる時代は変わってきていると思います。AIが得意なところはAIの力を借りる。そのうえで、企画やマーケティングなどの知識も身につけ、自分の領域を広げていく必要があります。
これまでは、AIを特別なものではなく、日常的に使える道具としてなじませる期間だったと思います。ただ、AI活用の目的は効率化だけではありません。生まれた時間を思考やブラッシュアップに使い、どうすればより良いアウトプットにつなげられるか。そこが肝だと思っています。そして、「良いアウトプット」の判断はデザイナーの役割。そこは変わらない部分です。
浦屋:イラストチームでも、新しい技術に常にアンテナを張り、学び続ける姿勢はさらに重要になっています。
AIのおかげで効率化できる部分や、表現の選択肢は確実に増えました。だからこそ、私たちは「人が考え、こだわる時間」をしっかり残していきたいです。人から人に届けるクリエイティブにおいて、その余白を使って表現を磨き続けることこそが、何より大切だと思っています。
AIは、刺激をくれるという意味ではライバルのような面もありますが、今では多くの部分で支えてくれる、本当に良い仕事仲間です。
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