生成AIの活用が広がるなか、サービス運営の現場でも、AIに任せられる業務の可能性が少しずつ広がっています。
一方で、カスタマーサポートや審査、モニタリングなどの運営業務では、AIに任せて終わりにできない工程も少なくありません。大切なのは、AIが担う部分と、人が確認・判断する部分をどうつなぐか。
LINEヤフーコミュニケーションズの運営DX部は、LINE関連サービスの運営領域にAIを組み込み、品質とスピードの両方を高める取り組みを進めています。単にツールを導入するのではなく、業務の流れそのものをどう見直しているのか。
AIを活かしたサービス運営のあり方について、運営DX部の髙田さんに話を聞きました。
点ではなく、流れで考えるAI活用
――まず、運営DX部の役割について教えてください。
髙田:LINEヤフーコミュニケーションズの業務を効率化し、業務の中にAIを組み込んでいくことが私たちの役割です。特に私たちは、LINE関連サービスの運営領域を中心に、AIをどう活用できるかを考えています。
AIの技術は日々進化していますし、LINEヤフーグループとして使えるAIの環境もどんどんアップデートされています。そうした変化をキャッチしながら、今のオペレーションに何が必要か、どのソリューションやシステムを使えば早く立ち上げられるのかを考えています。
ただ、私たちが見ているのは、個別の作業だけではありません。AIをどこか一部分に入れて終わりではなく、業務の流れの中でどう機能させるかを考えることが大切です。
現場の方は、自分たちの担当業務の中で課題を見ています。一方で、私たちは複数の業務を横断して見ているので、「このサービスだけに仕組みを入れるより、同じような業務全体に入れた方がいいのではないか」と考えることができます。現場の課題感と、私たちの全体視点を掛け合わせながら、提案したり相談したりしている関係です。
人がすべて入力する前提を変える
――運営領域でAI活用を進める背景には、どのような課題があったのでしょうか。
髙田:効率化を考えると、まずは自動化が選択肢になります。ただ、従来の自動化には一定の限界がありました。
特にモニタリング領域などでは、機械的に0か1で判断できないものも多いですし、画像を扱う場面もあります。そうした業務に対して、生成AIが出る以前から機械学習のAIを試しながら、使えるものを導入してきました。
AIを使ううえでずっと壁になっているのは、精度が100%ではないことです。仮に80%、90%の精度が出ても、残りの10%、20%をどう扱うのか。そこにどんなリスクがあり、どこに人の確認を入れるのかは、今も重要なテーマです。
――実際には、どのような業務で検証しているのでしょうか。
髙田:たとえば、あるサービスの立ち上げに向けて、お客さまがサービスを利用するために必要な情報を、代行して事前登録する業務がありました。
登録に必要な情報量が多く、当初の想定では、すべて手作業で行う必要がありました。試算では、月間の作業時間は約245時間。人が一つひとつ情報を探し、項目ごとに整理して入力する前提では、大きな工数がかかることが見込まれていました。
そこで、人がゼロから入力する前提を見直しました。Web検索AI、サイト情報取得AI、画像文字起こしAIの3つを組み合わせ、指定した情報源や画像から必要な情報を抽出し、項目ごとに整理して、決められた形式で出力する流れをつくりました。
人はすべてを手入力するのではなく、AIが事前に検索・分類・文字起こしした情報を確認し、必要に応じて修正する。つまり、AIで作業を完結させるというより、人が見るべきポイントを変えるための設計です。
検証段階では、月245時間かかる想定だった作業を35時間程度まで削減できる見込みも見えてきました。AIを入れることで、人の作業を置き換えるのではなく、運営の流れそのものを変えていく。そこに、この取り組みの意味があると思っています。
「つくれる」と「現場で使える」は違う
――AIを実際のサービス運営で使える形にするうえで、難しさはどこにありましたか。
髙田:形にするだけなら、比較的短い時間でプロトタイプをつくることはできます。実際、手を動かす時間だけでいえば、かなり短い時間で作れるものもあります。
ただ、つくること自体よりも、その後が大事です。AIが出した結果を見て、精度はどうか。誤った情報が入るリスクはないか。業務の中では、どこで人が確認すべきか。そこを見ないと、実際のサービス運営では使えません。
生成AIによる情報取得には、欲しい情報までたどり着けなかったり、誤った情報を取得してしまったりするリスクがあります。だからこそ、取得元や取得方法を限定したり、確度の高い情報に絞って扱うように制御を入れたりしました。
AIで「できそう」なものをつくることと、現場で安心して使える状態にすることは違います。AIが出したものをどこまで許容することが、お客さまにとって安心安全にサービスを使って頂けるラインなのか。誰が最終的に責任を持つのか。そこまで含めて設計しないと、サービス運営では使えないんです。
AIに愛着を持ってもらう
――AIを組み込んだ仕組みを、現場で実際に使ってもらうために意識していることはありますか。
髙田:作る時点で、現場の方にも一緒に入ってもらうことは意識しています。
私たちが「こういうツールを作りました」と渡すだけだと、現場にとっては自分たちのものになりにくいんです。現場の方が一緒に考え、意見を出しながら作っていくことで、当事者意識が生まれます。
少し細かい話ですが、作ったツールの名前を現場の方に考えてもらうこともあります。名前をつけると愛着が湧くんですよね。便利な仕組みを渡すだけではなく、現場の方が「自分たちの業務を良くするもの」として使いたくなる状態をつくることも大切だと思っています。
AI活用は技術だけで完結するものではありません。現場の業務を一番よく知っているのは、現場の方です。私たちはAIやシステムの知見を持っていますが、それだけでは実務にフィットする形にはなりません。現場と一緒に考えながら、実際に使われる形にしていくことが大事だと思っています。
定型業務をAIへ。人は判断とコミュニケーションへ
――生成AIの登場によって、AIが担える業務の範囲はさらに広がっています。運営現場での人の役割は、今後どのように変わっていくのでしょうか。
髙田:これまでの業務プロセスは、基本的に「人が作業すること」を前提に組まれていました。従来のAI活用も、需要予測や画像・テキストの判別など、一部の作業を自動化したり、人の業務を補助したりするものが中心で、業務の主体はあくまで人でした。一方、生成AIの登場によって、文章作成や情報抽出、一次対応など、これまで人が担ってきた複雑な作業にもAIを活用できるようになっています。今後は、人の作業をAIが部分的に補助するのではなく、「まずAIに任せるとしたら、人はどこで介入すべきか」という発想で、業務プロセスそのものを設計していく形に変わっていくと考えています。
AIに下準備を任せることで、人は作業のすべてを抱え込まなくてよくなります。これまで人が時間をかけていた情報収集や入力、整理のような定型的な工程は、できるだけAIに任せていきたいです。ただ、人の仕事がなくなるという話ではありません。現場の役割は、決められた実務をこなす実行者から、AIにどの工程を任せ、どこに人の判断を残すのかを考える設計者や、品質・リスクを管理する役割へと変わっていくと思います。AIが出した内容を確認し、どこにリスクが残るかを見極め、必要な対応を判断する。さらに、AIが正しく安全に成果を出し続けられるように、業務の流れやルールを設計し、コントロールする。そうした運営品質に関わる部分は、むしろ人が担う価値が高くなると考えています。
新しいAIやツールが出たときに、まず触ってみることも大事です。「ここまではできる」「ここはまだ難しい」という感覚は、実際に使わないと分かりません。使い方を覚えるためというより、業務のどの工程を変えられるのか、どこに人の確認を残すべきなのかを見極めるためです。AIで何ができるかを知り、それを実務のどこに活かせるかを考える。その両方があって、初めて運営の改善につながるのだと思います。
LINEヤフーコミュニケーションズは、サービス運営を支える会社です。だからこそ、AIでできることを増やすだけでなく、情報を集める、整理する、確認する、判断するという運営の流れをどう組み替えるかまで考えたい。AIが担う工程と、人が価値を発揮する工程を見極めながら、品質向上やお客さまとのコミュニケーションにつなげていく。その積み重ねで、LINEヤフーコミュニケーションズらしいAI活用をつくっていきたいです。