新シリーズ「しくじり、のち、原動力」では、リーダー陣の過去の失敗談や葛藤、そしてそれをどう打開・リカバリーしてきたのかを紹介します。企画のきっかけは、CEO鈴木優輔さんの著書 『仕事は「算数」でシンプルに解決する』に書かれていた失敗エピソードでした。誰もが経験する“しくじり”ですが、リーダーたちのリアルな葛藤を知る機会は滅多にありません。ぜひ本シリーズを通して、今後のヒントにしていただければ幸いです。
記念すべき第1回は、「Enjoy the Challenges Together」を社内で最も体現する人でありたいと語るCEOの鈴木さんに話を伺いました。
「しくじり」と呼べる経験について尋ねると、「正直、これといった明確な転換点はなかったんですよね」と鈴木さん。そこで、これまでのキャリアを一緒に振り返っていくと、話はLINE Fukuoka(現LINEヤフーコミュニケーションズ)へ着任した当時へとさかのぼります。会社をもっと良くしたいと試行錯誤を重ねた約3年間は、今の「挑戦を応援する」という考え方にもつながる、大きな学びのある時期だったようです。鈴木さんは当時、何に悩み、どのように周囲との向き合い方を変えていったのでしょうか。現在の原動力につながる、その道のりを聞きました!

「正しさ」だけでは届かない。熱量以上に大切な「相手を理解する」歩み寄り
――LINEに入社し、すぐに福岡へ着任されたそうですね。当時は社内がどのような状況で、具体的にどのような取り組みを進めたのでしょうか?
鈴木: 着任当時のLINE Fukuokaは、急成長する事業を支える運営業務に全力で取り組む一方、「福岡拠点ならではの本質的な価値」を生み出していくフェーズにありました。事業の成長を支え続けるためにも、運営業務そのものの価値を中長期的に高めていく必要があったんです。そこで私が取り組んだのが、「採用活動の再構築」と「福岡発の新たな価値創出」です。採用体制を整えるとともに、福岡発の取り組みとして、LINE@(※現LINE公式アカウント)を活用したグルメイベント「1COIN WALK 福岡」など、地域に根差した企画も立ち上げました。福岡の強みを生かして自ら企画・発信する姿勢が、主体的に価値を生み出していく一つの大きなきっかけになりました。

天神エリア中心に飲食店50店舗の協力を得て成功させた「1COIN WALK 福岡」
LINE@を使って約2万人のユーザーとつながり、大きな反響を得た(2014年)
――そうした取り組みを進める中で、周囲との関係づくりはどのように進んでいったのでしょうか?
鈴木: 正直、最初はうまくいきませんでした。一番苦しかったのは、思うように仲間を増やせなかったことです。
リーダーとして着任したばかりの私が、「会社をもっと良くしたい」という思いで変化を一気に進めようとしたことで、これまで現場を支えてきた皆さんとの間に、少しずつすれ違いが生まれていきました。現場の皆さんは、会社の土台となる日々の運営業務に全力で向き合っていました。そこへ着任して間もない私が、採用の見直しや新しい企画を次々と進めようとする。皆さんからすれば、「鈴木さんは新しいことばかりを見て、自分たちが積み上げてきた仕事の価値を理解していないのでは」と感じても当然だったと思います。もちろん私としては、会社の中長期的な成長を考えての行動でした。ただ、その思いや背景を丁寧に伝えきれていませんでした。
――日々すれ違いがあるなかで、当時はどのように向き合っていたのでしょうか?
鈴木: 当時は「いつか伝わる」と信じて、とにかく走り続けていました。でも、良かれと思って動いているのに、なかなか仲間が増えない。動けば動くほど空回りしているように感じる時期もありました。「会社に貢献したい」という気持ちが次第に焦りに変わっていったのだと思います。そんな状態が3年ほど続いて、何をやっても役に立っている気がせず、「自分なんかいない方がいいのではないか」と自問することもありました。本当に苦しかったですね。
――今振り返ると、なぜそこまでうまくいかなかったのだと思いますか?
鈴木: あの頃の私は、「会社をもっと良くしたい」という思いが人一倍強く、自分の熱量のまま物事を進めようとしていました。でも、周囲が置かれている状況や、それぞれが大切にしていることを十分に理解できていなかったんです。自分が取り組むべきと思うことに一生懸命になるあまり、相手を知り、関係を築くことが十分にできていませんでした。まず必要だったのは、皆さんに変化を求めることではなく、相手がどんな状況にいて、どのように考えているのか理解することだったと思います。何か象徴的な一つの大失敗があったわけではありません。でも、「会社を良くしたい」という思いが先行して、周囲との関係づくりが後回しになっていた。振り返ると、3年間もそんな大事なことに気が付かず、空回りしていたことが私にとって大きな反省だったと思います。
自分が打席に立つだけじゃない。「チャレンジする人」を全力で応援する組織へ
――どのように苦しい状況を乗り越えていったのでしょうか?
鈴木: 正直、明確な転換点はないのですが、3年ほどもがくなかで「自分が変わらなければ何も始まらない」と思い、泥臭い小さなコミュニケーションから行動を変えていきました。最初にやったのは、自分の中の力みやプライドを手放し、相手の考えに素直に耳を傾けることを徹底しました。すると徐々に会議でもこちらの話を聞いてもらえるようになったんです。さらに「前に失敗したのにまたやっている」と思われるほど現場の業務に本気で向き合う姿勢と、持ち前の粘り強さで、「この人は本気でやっているんだな」と周囲の反応が変化していきました。もう一つブレなかったのは「役割を演じる働き方をしない」というナチュラルなスタンスです。「会社に来たら課長だから課長らしく振る舞う」といった切り替えは私にはできません。だからこそいつも自然と言動のベースが一貫し、それが結果として周囲からの信頼となり心の不安を消し去ってくれたと感じています。
――そのような経験の中、鈴木さんご自身の意識やマネジメントのアプローチにはどのような変化があったのでしょうか?
鈴木: 価値を生み出す組織でないと会社として生き残っていけないため、まずは人事制度や社内表彰制度といった仕組みを整えて「どういう人物や仕事が評価されるか」を社員の皆さんにわかりやすくしました。そしてこの頃私の意識を大きく変えてくれたのが「薩摩の教え」との出会いでした。それまでの私は周囲にチャレンジすることを一方的に求めていました。しかし、この教えに触れたことで「大切なのは自分が打席に立ち続けることだけではない。仲間が安心して打席に立てるようにチャレンジを応援することだ。私の役目は失敗しても許容される土壌を作ることだ。」と気づいたのです。
何かに挑む人々の姿勢を5つの段階で表した薩摩藩に伝わる有名な教訓
特に3つ目の「自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者」という考え方に出会ってからは「この会社は、チャレンジする人を応援する人を評価します」と公言し、伝え続けるうちに、組織の空気がよい方向に少しずつ変わっていきました。そしてこのアプローチの根底にあるのは、人が働く上での内発的動機を生む3つの要素、「自律性・有能感・関係性」です。
内発的動機とは自身の興味や好奇心、やりがいなど、内側から湧き出る意欲によって行動する状態のこと
「価値ある会社」にするために、社員一人ひとりが自律性と有能感を持ち、それを応援し合える関係性の基盤を作りたいんです。時代によって採用、人事制度、AIなど向き合う課題や最新技術は常に変化しますが、どんな時でもこの3つの要素を継続することが最も重要だと考えています。昔私が仲間づくりに苦労していた頃は「応援し合える関係性の大切さ」に気が付いていませんでした。だからこそどれ一つとして欠けてはいけないと身をもって実感しています。
コーヒー試飲会のためにここまでする!?感謝が生む120%の力
――苦境を乗り越えた今、鈴木さんを突き動かしている「原動力」
鈴木: 一番は「感謝の気持ち」ですね。年々周囲に感謝することや感謝してもらえることが増えました。苦しい時期があったからこそいっそうそのように思います。 苦しかった頃は感謝する余裕がありませんでしたが、今は「見えないところでもみんなが会社を支えてくれている」と深く感謝できるようになりました。例えば、今年の方針「SHINKA」を掲げた際もリーダー陣が想像を超えて社員やパートナー企業に伝えている姿を見て本当にありがたいと感じました。感謝し感謝される関係性は、幸せの尺度に直結していると実感しています。また、社長という立場は常に期待や要望が寄せられますが、私は期待や要望を寄せられた方が、「120%力を発揮していいんだな」と腹がくくれて、むしろ迷いがなくなります。相手の期待を絶対に超えたいと思うんです。
――「相手の期待を越えたい」という強い想いはどこから湧き出てくるのでしょうか?
鈴木: 私は誰かに期待してもらえると素直に嬉しく、社内からのちょっとした依頼にもしっかり応えたいんです。例えば会社のオリジナルコーヒー作りの試飲会に呼ばれた際も、私に何かを期待してくれたからあえて呼んでくれたと思うんです。だからただ一緒にロースタリーに行くだけではありません。事前に資料を読み込み、コーヒーを飲むシーンを想像して紹介文の下書きまで用意し、パッケージのイメージも考えて臨みました。そこまで誰も期待していなかったと思いますけど(笑)。根底にあるのは常に「相手の想像を超えて笑顔にしたい」という強い気持ちなんです。このような泥臭い準備力や精神的なタフさは自分の強みでもあるため、皆さんに還元することで応援につながれば嬉しいですね。
オリジナルブレンドコーヒー「CHEERSブレンド 」と「ENJOYブレンド」の試飲でも妥協なし
真剣に香りや味を確かめる鈴木さん(2026年)
社員の家族や大切な人が来社するイベント「Thanks Day」カフェスタッフなどを務め、
ゲストを全力でお迎え(2026年)
理由なんて後付けでいい。「とりあえずやってみる」から道は開ける
――最後に、新しい一歩を踏み出そうとしているビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
鈴木: 趣味のマラソンも、39歳の時に入院したのがきっかけでした。「病気に負けないくらい強くなってやろう!」とその場の勢いで福岡マラソンに申し込んだのが始まりでした(笑)。書籍『仕事は「算数」でシンプルに解決する』の執筆も同じで、「せっかく声をかけてもらったからやってみよう」と動いた結果、道が開けました。どちらも最初から立派な理由や動機があったわけではなく、やりがいは後からついてきました。モチベーションに最初から完璧な理由は不要です。やってみてダメなら辞めても構いません。誰かに誘われたことに乗ってみるのもいいですね。大層に考えすぎず、何事も気軽に試してみてください。 